蒙古斑革命 山口小夜子×高木由利子

第3回 純化する音の求道者 灰野敬二

Words From 山口小夜子

灰野さんが創作される音楽にはずっと長い間興味を持ち、CDでその音は聴いていましたし、周りに灰野さんを尊敬する方々が多いこともあって、お話は伺っていました。けれどそのステージを初めて拝見したのは、ほんの1年半くらい前のことです。

高円寺の小さなライブ・ハウスで行われた『生誕ライブ』、それは私にとってまさに衝撃的なものでした。いろいろな機械を駆使して灰野さんが一人で演奏されるソロの作品でしたが、灰野さんの音がどんどん紡ぎ出されていき、ふと気づいたときには3時間もの時が経っていました。終わったときには自分の声すら聞こえない爆音に包まれていたのですが、体中の細胞が満たされるような、そんな充足した感覚を得られたのです。そしてその音楽に向かう何も濁りのない姿勢に、崇高なもの、何か尊いものを見た気がしました。

それからたくさんのライブに足を運ぶようになったのですが、毎回、スタイルが違うのです。様々な方とのコラボレーションもあれば、弾く楽器も違う。けれど、どのライブを拝見しても、そこには誰にも真似できない、灰野敬二さんにしか出せない音、色合い、世界観が満ちあふれていました。自分の音楽を突き詰め、自分の音を探し続けてまっすぐに歩み続けているその姿は、まるで音楽の中を旅する人のように感じられます。

今回お話をさせていただけて、一つ新しい発見がありました。そうした灰野敬二さんのすべてを創り出す源は、“無邪気な心”にあるのではないかということです。どんなジャンルであれ、ご自身の表現を確立された方に共通して言えることなのですが、そこには“天真爛漫な無邪気さ”があるように私は思います。それは子供が持つこの世界に対する素直な好奇心や、目の前にあるものに対して無邪気に反応する純真な心と言ってもいいかもしれません。灰野さんの奥にあるその“無邪気な心”が、経験の中で培われてきた価値観や美意識と結びついたときに、あの類い希な音の世界が生まれるのではないかと思うのです。

インタビューを読む

The Salvage Project of 蒙古斑革命

2007年に他界したファッションモデル/パフォーマーの山口小夜子と写真家の高木由利子が2005年から2007年にかけて行っていたプロジェクト『蒙古斑革命』の失われていたWebサイトのサルベージを開始します。

『蒙古斑革命』は、ファッションモデルとしてかつて ”日本” のアイコンであった山口小夜子と世界を飛び廻り”人の存在”を撮り続ける高木由利子が、あらためて日本に生きる人々の美意識を探り、そのアイデンティティに向き合うべく、2人の目に留まった総勢32名の”エッジな人々”へインタビューを行ったプロジェクトです。

その様子は、 雑誌「ソトコト」で高木由利子による写真とグラフィックをメインにインタビューの抜粋を掲載し、Webサイトでインタビュー全文を公開するという形でおよそ2年間にわたり連載を行っていました。

連載が終了した2007年、山口小夜子が急逝。
そして、奇しくもそれとほぼ時を同じくし、サーバーダウンによりWebサイトの全データが消失、また、ローカルデータやインタビュー音声なども消失してしまい、『蒙古斑革命』の記録を閲覧することができなくなってしまいました。

山口小夜子急逝から10年経過した2017年、『蒙古斑革命』を当時愛読し、多くの影響を受けたという星野圭一の呼びかけに始まり、高木由利子、プロジェクト発足当時から影で支えていた現代美術家/ホーメイ歌手の山川冬樹、山口小夜子と舞・朗読・映像によるパフォーマンス活動を共にした演出家の生西康典、エンジニアの篠原敏蔵らが集まり、『蒙古斑革命』復活プロジェクトを発足。高木由利子が所蔵していたインタビューの様子を撮影した映像や誌面原稿から記録を起こし直し、新たに再構築することで『蒙古斑革命』Webサイトの復活にたどり着きました。(データサルベージ作業は、現在も続いており32名分のインタビューは順次公開していきます。)

第1回目の公開は、山口小夜子生誕の日にあたる9月19日。全32名へのインタビューを終え、連載の最後に行われた山口小夜子と高木由利子の「終わらない旅」と題された対談からスタートします。この対談は『蒙古斑革命』立ち上げの経緯やその想いを語った内容となっており、また、プロジェクトのステートメントとしても受け取ることができます。「終わらない旅」と題されているとおり、連載終了後も『蒙古斑革命』の精神が多くのひとに拡がっていくことを願った山口小夜子と高木由利子の意志を受け継ぐところからサルベージを開始します。

10年の時を経てふたたび『蒙古斑革命』が蘇ることで、山口小夜子と高木由利子の企みと想いが、現代の多くのひとと共鳴し「旅の続き」がはじまることを願っています。

2017年9月19日
「蒙古斑革命」復活プロジェクト 一同