第3章
舞台の服作り

山口
衣装を作るときにどうやってイメージを形にしていくのですか。
田中
原作があるものだとしたら、その本をまず読みます。もう、ここから自分の思考や想像は始まっているんですけど。そうして読みながら、想像をふくらませて、 読み終わってからもう1回、正確ではありませんがそのストーリーを自分の中で進めていって、「自分がこうやったら面白いだろう、ああやったら面白いだろう」と思考を巡らしたり、想像していくと、形が浮かんでくるんです。全体の世界をまず勝手に想像して、その世界を創ってしまうんです。
山口
そうすると、脚本があがったときに原作とのギャップがあると思いますが、そのときは?
田中
最初のイメージはある程度とっておくんです。明らかに違うな、という場合は、頭の片隅に残して置きながら、とりあえず切り離します。たとえば想像したものが球体のように浮かんでるとしたら、前に想像したものは、親子みたいな小さな球体として隅のほうに置いておき、離すか離さないか程度に感じるんです。また違うところで生かせるな、と思って消しはしない。そうして、外そうとしているものよりも、よりいいものを想像するようにする。ある意味、自分がいちばんやりたくて想像したものだから、その小さな球体が邪魔するときもあるんですけど、なるべくそれよりいいものをもっと発想しようと思っています。
山口
次に、演出が始まると、またギャップが出てきますよね。
田中
演出家の想像の世界と、ぼくのデザインが合わないということはよくある話ですね。違うときは、また思考と想像のプロセスが始まります。
山口
それまで自分が考えていたものはどうするんですか。
田中
それまで自分が考えていたものと一回、混ぜ込んで、また新しい世界を創り、またそこから発想を始めるんです。0から発想することもあるし、前から発想していたもののいいところだけを活かして、いかに演出家の世界と一致させるかということを考え始めるんです。でも自分がほんとうにやりたかったら、演出家を説得します。どうしたら、自分のやりたいことを押し出せて、それをいかに演出家の世界と一致させるか、いかに演出家の人にわかってもらえるかを考えながら。
山口
衣装デザインをするときに、形・色・素材の位置づけはどうなりますか?
田中
ぼくの場合、いちばん最初に形が浮かんできてしまうんです。素材や色は次に浮かぶことで、あとから「あの素材はこれに適している、これにはこの色が素敵だ」と入ってきます。形から入って素材や色へ、という順番になりますね。
山口
実際に制作してみたら、思い通りにならないこともあると思いますが、そのときはどうされますか?
田中
ケースバイケースなんですけど、どうしてもやりたい素材であれば、それに合うものを探します。興味があるのは、服に使われない素材ですね。舞台衣装って既製服と違って、実験的な要素を組み込める場がたくさんあるんですよ。
山口
舞台衣装の場合、ふつうの服とは違って、思った色を実現するのも大変だと思います。
田中
違いますね。たとえば手元で赤だとしても舞台のフィルターにかかると赤に見えなかったり、光って見えなかったり。その辺を楽しみながらやっています。
山口
あとでスプレーしたりプリントしたり、プラスアルファで工夫も凝らされますね。
田中
その技法を教えてもらったのは、太田雅公さんからです。舞台では染めただけの色だと沈むんですよ。表面に色を乗せることによって、角度によって色の見え方も違ってくるし、際立ってくる。より効果的になる、マジックのような感じですね。色は照明によってもまた変わってきますし。衣装に合わせてくれる照明家もいれば、舞台全体を照らすようなアーティスティックな照明をする方もいますから。明らかに色がおかしいときは、また染め直したり、作り直したりもします。最終手段としては、スプレーをかけたりして表面を変え、見せ方を変えて、よりよくすると言う感じですかね。
山口
すると、そういう照明プランを把握して、実際に舞台に立ったときにどうなるのかというのを、時間のない中で作品にしなくちゃいけない。それがすごく大変だな、と思います。
田中
何回も染め直して、その上からプリントして、なおかつ、全体の色が変だったので、そこからまたスプレーをかけて、ということもあります。
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田中洋介×山口小夜子