第5章
知らない世界を覗きたい

山口
子供の頃はどんなことをして遊んでました?
田中
外に出るのが好きで、知らないところに行くのが好きでした。小さいときって自分の知っている世界がすごく狭いですよね。自分の家のまわりの半径何メートルという分わかりきったところにしか行かない。でも、その外の知らない場所に行きたいというのが強くあって、よく両親が「帰ってこない、どこに行ったかわからない」って探していたらしいです(笑)。近くで見かけないし、誰に訊いても見かけた形跡がないから、不安に思ったんじゃないですか。一度、どこに行くのか隠れてついてきたらしくて。そうしたら、かなり遠くの川まで歩いて行っていた、と聞きました。
山口
じゃ、尾行されて(笑)。
田中
好奇心が強かったんでしょうね。今でもそうなんですけど、一人で自転車に乗って知らない町に行くのが好きなんですよ。平気で何時間も乗ってたりしますし。自転車だと、自分でスピードも落とせるし、速めることもできる。かつ、速いといっても、自分の目で見るものを追えないほど速くはないから。
山口
だから海外にもいろいろ行っていらっしゃるのですね。
田中
行きました。列車の旅で、14ヵ国ほど。でも、近くの知らない町を訪ねるのも、ヨーロッパに行くのも、ぼくにとっては同じことなんです。近くの知らない道に入るのも大好きです。旅をしている感じなんです。
山口
今後、何かされたいことはありますか。
田中
舞台衣装はこのまま続けていけたらやりたいです。まだ初めたばかりなので。
山口
この8月に『雪の女王』の衣装を手がけられますが、構想はすでにまとまりましたか。(※取材時は2005年)
田中
構想はだいたいできてプレゼンテーションまでしたんですけど。演出家がイタリア人で、照明と美術がフランス人なので、今、その方たちの返事待ちになっています。
山口
一度、海外の劇場の工房も経験されるといいんじゃないかと思うんです。日本の劇場には工房と呼べる設備すらないけれど、素材も揃っていれば、必要なものがある工房があるんです。レベルが違うんですよ。どんなことでも可能にできるし、あらゆる技術もその瞬間に集まる。この前、田中さんたちと仕事をして、限られた設備の中でできる限り要望に応えようとしてくれた姿勢が、その工房のあり方と近いな、と思ったんですね。だからぜひ体験していただきたいんです。
田中
それは面白そうですね。一つの繋がりで舞台衣装という世界に入って、それが面白くてやってたら次に繋がって、今まで来ているんですよね。これからも続けていければいいな、と思っています。あともう一つ、自分のブランドというのかな、自分が考えるものも作っていきたいと思っているんです。舞台衣装とはちょっと違う、既製服のジャンルで。もともと既製服をやりたくってこの世界に入ったので。
山口
これからも服作りと平行して発掘は続けられるんですか?
田中
そうですね。そういう機会に恵まれれば。土に触っていると落ち着くんです。土をいじっていると、想像や思考でいっぱいになった頭が、いったんニュートラルになるというか。そうして再び新鮮な気持ちでデザインに向かうことができるから、今のぼくにとっては大切な時間なんです。
インタビュー 2005年
構成:下田敦子
田中洋介●YOSUKE TANAKA
衣裳家。文化服装学院を経て小池千枝氏、太田雅公氏、山口小夜子氏に師事し、自身で2005年から衣裳家とし活動開始。演劇、ダンス、映画、TV、展覧会の衣裳などを手掛ける。
主な演劇作品
  • 演出:串田和美『兵士の物語』『もっと泣いてよフラッパー』
  • 演出:テレーサ・ルドヴィコ『雪の女王』、『にんぎょひめ』
  • 演出:渡辺えり『乙女の祈り』『天使猫』、『あかい壁の家』
  • 演出:スズキ拓郎『THE GIANT PEACH』等。
主なダンス作品
  • BATIK『ペンダント・イブ』Nibroll『イマジネーション•レコード』等。
主な映画作品
  • 富名哲也監督 『Blue Wind Blow』(第68回ベルリン国際映画祭招待作品)
また東京都現代美術館 『山口小夜子 未来を着る人』展覧会では衣裳監修、スタイリングとして関わる。
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田中洋介×山口小夜子