第3章
ファッションとアートの境界上で

山口
初めて行ったパリコレはいかがでしたか。
津村
じつはそれが初めての海外旅行だったんですよ。しかもパリコレじゃないですか。パリに降り立った瞬間に、地面が空中に浮いているような、土地が揺れているような感じがして。
山口
わかります、私もそんな感じでした。明日がコレクションという日に、地面がそういう感じで揺れて、そのまま気を失ってしまって。はっと気がついたら倒れていた。
津村
最初はあんまり舞い上がっていたから、寝ないで。それでも夜はクラブに遊びに行ったりして。隙をついてロンドンにも行きましたよ。ロンドン・パンク見なくっちゃ、と思って。
山口
その頃のロンドンはどうでした?
津村
ちょうどIDマガジンが創刊された頃で、パンクがものすごく盛り上がってきていたんです。で、パンクスはとてもプリミティヴだ、と思ったんですよ。大昔の人間は、その辺にある木や動物の骨を装飾として利用していたけど、その辺にあるボルトや安全ピンをつけているわけでしょう。ぼくはジッパーがすごく好きなんですけど、それが助骨や骨みたいにも見えるんです。それと、彼らのコミュニティを作って生活をしている感じが、ホームレスのあり方となんとなく近いように感じて。やっぱり身の回りのものを使って、カスタマイズして生活しているようなところが。
山口
その辺りから、この『FINAL HOME』の持つコンセプトとリンクするような視点をお持ちだったんですね。その後、三宅デザイン事務所に籍をおきながら、独自の活動も始められて。
津村
それも変わった経緯なんですけれど...。ぼくは主に小物を担当していたんです。帽子やバック、靴とか。そうしたらオブジェっぽいものに興味が出ちゃって。家でウレタンとか使っていろいろ作品を作っていたんですよ。で、ある日イッセイさんに「見に来てください」と言って、家に来てもらったんです。そうしたら「面白いんじゃない?」と、キュレーターの小池一子さんを紹介してもらって、じゃ、個展をやろうよ、と。そうしてファッションじゃない形で独自の活動が同時に始まったんです。
山口
そう、津村さんはファッション・デザイナーであると同時に、アーティストでもあるでしょう。
津村
アートは好きなんです。ずいぶんアートを過大に評価していた時期もあったんですけれど、最近はそうでもなくて。自分はファッション・デザイナーだと自覚したほうがいいと思ったんですよ。アーティストと言うと、絶対何かがすごくなくちゃいけない、という風潮があるじゃないですか。ファッション・デザイナーがカッコイイと言っておきたいんです。
山口
それと、従来のファッション・ショウのあり方からいち早く脱皮して、アートと融合したような見せ方の展開をされていたり。
津村
ちょうど『FINAL HOME』をデザインし始めた頃に、なんというのかな、ファッション・ショウがなんか引っかかるものになっていったんです。過剰すぎるというのか。ロンドン・パンクのほうが、カッコイイじゃない、とも思い始めて。最近また、東京でも大テントを建ててファッション・ショウをやるという動きが出ていますよね。でも、今の若い人たちはそんなのはどうでもいいじゃない、としか思っていないようにも見えるんです。ファッション・ショウって、モダニズムというか、文化を感じさせるお祭りとしての行為の、いちばんわかりやすいスタイルなんじゃないのか、と思うんです。リオのカーニバルや盆踊りがあれば、ファッション・ショウもある、と。一つのイベントのスタイルとしてできあがっているというのか。お祭りとしては悪くないし、いいことなんだろうけれど、すごく新しいことをやるには、もっと個人的な表現を見つけないと、新しくなれないと思うんです。
山口
ほんとうなら、ファッションってそれを先へと進めなくちゃいけないんだけど。
津村
前にパリは日本人に対して、わりと友好的に接してきたと思うんですよ。それを同じ役割を今度、日本が韓国や中国などのアジアのデザイナーに果たそうとしているんですが、果たしうるかというと...日本は今、バッシングされているのもあるし。
山口
そうですね、難しいですね。それにパリにはモードに対する文化的伝統やセンスがあったからできたことなんだと思います。それをそのまま日本であれ中国であれ、持ってきたとしても、同じことはできないと思います。
津村
日本のファッションがヨーロッパをこれまで追ってきてしまった、という問題もあると思うんです。日本には日本の「良さ」があると思うんですよ。王道の美意識からは外れるかもしれないんだけど、それがゆえに進化したアニメなんかもあるわけじゃないですか。実際、今、独自で新しいプレゼンの仕方をしようとしている人たちがいますよね。そういうトライブ的な動きは出てくると思います。でもそれを今、統一して、というのは違うんじゃないか、とも思うんですよね。
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津村耕祐×山口小夜子