第4章
家を着る『FINAL HOME』

  • 山口

    『FINAL HOME』は1995年からの展開になりますが、これはどうして思いつかれたんですか。

  • 津村

    あるとき、この『FINAL HOME』の形がふと頭に浮かんだんです。

  • 山口

    形が先だったんですか。コンセプトが素晴らしいなと思っていたんですけれど。

  • 津村

    コンセプトが先にあって生まれたかのように思うかも知れないんだけど、じつは形が先なんです。ヒントはクッション。クッションって、ジッパーがついていて、中にウレタンやパンヤが入っているけれど、中身をとったら、ただのペラペラな布ですよね。それが繋がっていったら、服になると思ったんですよ。取り外し自由なバブル・ジャケットのようなものができるんじゃないかな、と思って。

  • 山口

    そうやって形を考えていったら、一つずつのマスにジッパーがついているよりも、ステッチで袋にして、一発のジッパーで取り外せるような形のほうが、効率的にできるだろう、と形ができあがっていったんです。

  • 津村

    次にこういう服ってどういうときに便利なのか、と考えていくと...。たとえば動物なら木の葉を周りに敷いて冬眠するように、ウレタンやパンヤの代わりに、その辺にある新聞紙でも入れておけば温かいんじゃないのか、と。これはホームレスに便利な服なんじゃないかな、と膨らんでいったんです。そうしてネーミングができたんです。まるで家みたいな服ーー『FINAL HOME』と。

  • 山口

    「家を着る」という感覚ですよね。

  • 津村

    今、引き籠もりが問題になっているじゃないですか。でもこの服を着れば、引き籠もりながら外を歩ける(笑)。実際、引き籠もりに近いことってみんなやっていると思うんですよ。たとえば電車の中で人と目を合わさずに本を読んだり携帯をいじったりするというのは、ある種自分に引き籠もっているとも言える。それがこの服を着て、フードでもかぶって、さらに前を閉じてしまえば、引き籠もる感覚にかなり近いと思うんですよ。引き籠もっていれば、外に出て歩いたりできるでしょうって。

  • 山口

    それ、すごく素敵。

  • 津村

    ある種の皮肉も込めているんだけれどもね。でも人間って...たとえば強気に見えても、その強気は自分の鈍感さからくる強気かもしれないし、あるいは精神的にプロテクトして強気になっているだけなのかもしれない。それを内面で補えない場合、服の力を借りて、なんとかやりきれることってあると思うんです。

  • 山口

    自分を守ってくれる、プロテクトしてくれる、という感じがします。たとえば紫外線が今、地球上にすごく降り注いでいて、服で全身のプロテクションができるといいな、と思っていたら、津村さんがそういう服を作られていた。

  • 津村

    服で機能的にプロテクトする、というのを考える一方で、今、ファッションの持っているもともとのパワーというものを考えているんです。もっと自立的というか、呪術的なファッションそのものが持つパワーを。

  • 山口

    たとえば赤い服を着ただけで気持ちが高揚する、というような色のパワーがある。あるいは、アクセサリーが持っている、拘束されるような感覚によって自分が引きとめられるような感じとか。それがもっと強くなると、ピアスをあける感覚や、極端に言えばリストカットに近づいてしまうものかもしれないけれど。そういうファッションの力を逆に再認識しだしたところがあるんです。

  • 津村

    服を着ることは人間にとってストレスにもなりますよね。拘束されたり、重かったり、皮膚への摩擦であったり。でも、着ないことのストレスもありますし。

  • 山口

    着ないと恥ずかしかったりね。精神的なストレスを回避するために、別のストレスを身体に与えることもある。ファッションって外面をとりつくろうものだけれど、それによって内面的に安心できる部分ってあると思うんですよ。やっぱり表裏一体というか、リバーシブルになっているというか。だから抜け殻とかも好きなんですけれどもね。