第3章
日活に怒られたアヴァンギャルドな映像

山口
先日は木村威夫先生が監督された映画『馬頭琴夜奏曲』で一緒に共演させていただいきましたが、とても楽しかった。
鈴木
あのときは面白かった。が、あなたにしてやられました。
山口
清順さんは酸素ボンベを外して走られて。映像も美しかった。ほんとうにご一緒させていただいて嬉しかったです。木村先生は美術監督としてずっと組まれて仲良しでいらっしゃいますが、出会われたのは日活に入ってからですか。
鈴木
そうです。あの人はなんというのかな、知恵者だからね。智恵が歩き回っているようなものだから。いろんなことをよく知っているし、よく勉強もしているしね。ああいう人と話しているといろんなことが聞けて、そのエキスを吸収できるというのかな。
山口
日活の前は松竹にいらっしゃいましたが、入社されたのは戦争から戻られてからですね。
鈴木
兵隊から帰って、旧制高校を卒業したんです。戦前の旧制高校は黙ってても今の東大に入れたわけだ。東京帝国大学って言ってね。でも、戦後に試験ができちゃったんだよ。その試験に受からなくてゴロゴロしているときに、松竹の助監督試験があったんです。それを受けたら受かった。
山口
それで日活で監督としてデビューされたわけですが、昨年、デビュー50周年記念のDVDBOXが出されましたよね。1組はふつうにベスト・セレクション的なものですが、もう一つのタイトルが面白くて『日活に大目玉をくらった作品』。その中でいちばん怒られたのが、あの伝説的な映画『殺しの烙印』で。
鈴木
あのとき会社はね、エロティックな映画を狙っていたんです。それがアクションが多いので怒られた。
山口
あの映画の中に電気釜が出てくるでしょう。殺し屋が炊きあがったご飯の香りをかぐと、急に燃える男になるんですよね。あのシーンがすごくアヴァンギャルドで面白い、とみんなが言っています。
鈴木
あれ、タイアップなんだよ。パロマのタイアップ。
山口
そうだったんですね(笑)。でもそういうことさえ許して、それを面白く使ってしまうのが清順さんのすごいところだと思います。
鈴木
いや、やらなきゃ会社が儲けられなくなっちゃうものね。せっかくタイアップとってきたのに、なんだ、と。而しアイデアは脚本の大和屋さんだよ。
山口
ほかにもタイアップものってあるんですか。
鈴木
だいたいタイアップしている。日活映画はみんなそうですよ。旅館とタイアップしたり。先日、日清食品の会長・安藤百福さんが亡くなられたという報を聞いて思い出したんだけれど、カップラーメンも撮ったよ。忘れもしない。セットに行ったら、宣伝部のヤツがカップラーメンを並べているんだよ。「どうしたんだ」って言ったら、「これを撮ってください」と。
山口
それは何の映画?観てみたい。
鈴木
なんだか忘れちゃったけれど。ただ、日活がジリ貧になって映画をテレビ局に売ったんだよね。そのときテレビの放映枠に収めるために、編集でカットしてしまったかもしれない。或いはスポンサー関係でカットしたか。
山口
ほんとうに感覚がアヴァンギャルドですごく若くていらっしゃって、どうしてなんだろう、といつも不思議に思っているんですが。
鈴木
説明しようがないよね、こればかりは。
山口
感覚的なものですものね。
鈴木
さっき言った「愛」なんてものは嫌いだよ(笑)。そういうウジウジしたものは。
山口
はっきりしていて、しゃきっとしたものがお好きですよね。下町、江戸っ子気質というか。
鈴木
生れ育ちはやっぱり影響しますね。江戸っ子というのか、とにかくウジウジしているのはダメなんだ。
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鈴木清順×山口小夜子