第4章
現場で発揮される早い決断、シャープな視点

山口
映画監督というのは、瞬時に判断しなくてはいけないことがたくさんあり、時間の制約もあり、ほんとうに大変なお仕事だと思います。
鈴木
あるプロデューサーが「1回やって失敗したと思ったら、2度とやらなきゃいい」って言っていたけれど、でも2度とやるわけないんだよね。
山口
演出をされているときの清順さんは、決断が早くて、視点がものすごくシャープ。それで周りのスタッフが右往左往して、監督のおっしゃるとおりに何とかしよう、とするその熱意と熱気もすばらしいんです。だけど、その中でいちばんエネルギッシュでお若いのが清順さんだったりするの。
鈴木
そんなことないですよ(笑)。
山口
現場でさまざまな判断を下していく中で、これはいい、これは違う、とする基準はどこにあるんでしょうか。
鈴木
やっぱり好みだね。例えばものを食べて舌に合う、それと同じようなものだと思うんだよ。皮膚感覚というのかな。あなたとこうして話をしていても思うけれど、やっぱりスターになる人って独特の空気を持っているんだよ。オーラみたいなものを。それが伝わるんだ。
山口
たとえば衣装だと、最初に良いと思っていたものが、ある状況の中に置いたらそうでもなかった、という場合もあるでしょう。そういう場合はどうするんですか?
鈴木
撮影所だったら問題がないんだよ。衣装部があるから。直ぐ変えの衣装が調達出来る。而し衣装合せはロケ、セットあらゆる場面を想定して色やデザインを決めるから、現場の駄目出しは先ずあり得ませんね。基本的に女優さんに関しては、「好みのものを、まず取ってください」と言う。そのほうがいい。こっちがとやかく言うより、その人自身がいちばんわかっているだろうから。女優さんに関してはそう。
山口
男優さんに関しては?
鈴木
男優さんは役の上から決めるの。
山口
お好きな女優さんというと...ダニエル・ダリューがいちばんお好きなんですよね。その頃の俳優さんと今の俳優さんとでは違うでしょう。その違いをどういうふうに楽しまれているのでしょうか。
鈴木
今の若い人たちは、同じなんだよね。顔の作りも、動作もね。昔は映画スターさんに会えるのはスクリーンの上だけだったから。情報も今ほどないし。自分の憧れというのかな。憧れとして残るんだろうな。今は見えちゃうからね。なんだこの人は...、というふうになっちゃいますよね。憧れじゃなくなっちゃったんだよね。
山口
今は情報も溢れていますからね。監督としてお仕事で触れあうようになって、見えてきた部分もあるでしょう。
鈴木
私的には付き合わないから、よくわからないんだよね。もっと私的に付き合っていれば、この人がいい、この人が嫌い、と言えるんだろうけれど。お酒を一緒に飲んだり、というのもあまりないんですよ。
山口
俳優さんを選ばれる基準は?
鈴木
脇は芝居がうまければいいんですよ。顔が突拍子もなくても、芝居さえよければ。でも主役になるとそうはいかない。
山口
演技もよくて顔もいい。
鈴木
いや、演技なんて二の次。顔がいいのが一番。キャメラ写りがいい人ね。それが第一の条件。
山口
性格もあまり関係ない?
鈴木
関係ない(笑)。
山口
そうですか(笑)。それは昔からですか。
鈴木
そう思ってやっているからね。やっぱりキャメラ写りがよくなければ、主役じゃない。
山口
映画制作にはほんとうに多くの人が関わって、これまでにもいろんな方とお仕事をされてきたと思うのですが、これから一緒に仕事をしていみたいと思う人はいますか。
鈴木
我々の仕事は、万やむを得ずやるわけだから。はっきり言えば、生活のためにやっているわけだ、監督なんて。言ってみれば向こうから来ればそれでいい。
こっちはスタッフをそれほど広く知っているわけじゃないからね。美術なら美術、キャメラならキャメラで知っている範囲から選んで、その人たちから話を聞いたりしてね。自分の智恵の間口というのはそれほど広くないんですよ。面白いものがあれば、あ、今度これをどういうふうに使おうかな、と考えるのがこっちの仕事なんです。だから面白いアイデアを持った相談相手がいないと困っちゃうんだよ。
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鈴木清順×山口小夜子