第5章
余裕があるから悩んでいられる

  • 山口

    渋谷だと若い人も多く来るのではないかと思いますけれど、今、社会現象にもなっている引きこもりの人たちをご覧になったことはありますか。

  • 鍋田

    来る方もいらっしゃいますけれど、来られる方はまだ軽いんだと思います。本人が引きこもりだと言っても。

    そこまで出てこられる引きこもりの方に関しては、じつはお母さんを呼んでいただくようにしているんです。当人には、自分の生き方というものと、他人には優しく、と言うに止めておいて、お母さんに厳しく説教するんです。ぼく自身のやり方が正しいのかどうかはわかりませんけれども。

    子供に話を聞くと、親自身が甘えていたり、大変だ、頑張っていると言いながら、ほんとうに子供のことに関して腹を括ってはない、ということが感じられるんです。修羅場になるのを嫌がって、キレイ事でもって「よかったら鍋田さん、家に来て説得してくれる」というようなことを言っていたり、動こうとしないケースが多いので。

    やっぱり親権者ががんばらないと、第三者が関わってそこそこ良くなっても、毎日そばにいる親が変わらないようであれば、結果的に家の中で喧嘩が絶えなくなってしまったり、家出してしまったり、根本の解決にはならないんですよ。だから引きこもりに関しては、親を中心に動いているんです。

  • 山口

    引きこもりって甘えなんですよね。子供がまず甘えて。甘えられる環境を親が用意して。

  • 鍋田

    その環境を一度リセットしない限りは、なかなか本当の意味での解決にはなっていかないのかな、というのがぼく自身の考え方なんです。

  • 山口

    いろんな方たちと接しているわけですから、苦労や気遣いも多くされているのではと思います。

  • 鍋田

    でもぼくはたいしたことないと思います。あるとき若いコが来て「私、結婚できるかしら、仕事もできるかしら」と言ってくるんです。若いのに何を言っているのかな、と思って聞くと、じつは病気で数年したら身体の自由がきかなくなる、と言うんです。でもせっかくこの世に生まれてきたから、人の役に立つことをしたい、と福祉関係に進もうと日夜がんばっている。

    そういうふうに自分で自由になる時間が限られている人もいるんです。そういう方たちにとっては、今日悩んだことを明日に持ち越すことがいちばんショックだ、と言うんです。たとえばぼくが壁にぶつかって心を痛めたとしても、余裕があるから落ち込んだり、悩んでいられるんです。余裕がなかったら、悩んだり落ち込んだりしていられないんですよ。

    自分自身を崖っぷぶちにおいて頑張ってきたつもりではいるんですが、そういう生死に関わる問題を抱えている人、自由な時間があとこれだけ、と決められて、終わりが決まっている人からみると、生き方としては甘いと思いますので。

  • 山口

    私たちには明確な期限はないけれど、それでも生は有限なわけだから、その中で自分に与えられたこと、一つ一つの出会いを、その都度、真撃に受け止めて、感謝を持って生きていきたいですね。

  • 鍋田

    そうですね。悩みがあるのは仕方がないけれど、ほんとうはもっと感謝の気持ちを持って過ごしたほうがいい。私自身、いらっしゃる方にあれこれ言っていますけれど、ほんとうは自分が来る方に成長させられているんですよね。お客さんに勉強させてもらっているようなものだと、感謝する毎日です。

  • 山口

    今はもう、他のお仕事をしてみたいとは思いませんか。

  • 鍋田

    今はありませんね。いろんな話を聞くと「やってみたいな」と頭を過ぎるんですが、そういうふうに思うだけで。頭の中でシミュレーションするに止めています。座っていて手が空いたときなど、こういう仕事もいいな、こういうのが仕事になるんじゃないかな、といっつも考えてる。

    でも、思っているだけですけれどもね。たぶん今までの生き方の中では、自分の気持ちがいちばん落ち着いていますから。

  • 山口

    たぶん、人を救うように生まれてこられたんですね。

  • 鍋田

    ぼく自身がそういう存在になっているかどうかはわかりませんけれども。救うというのはおこがましいし、自己満足の思いやりになるのもいけないと思いますので。ただ、少しでも手助けになれれば、という気持ちはいつもあります。

    サラリーマン時代も、いろんな事業をしていたときも、今振り返ってみると、自分が納得した生き方とはいえ、結局は潜在的に自分さえよければ、という気持ちがあったと思うんです。この年になった今、仕事がバリバリできて人生上手くいってる!と思う方向性よりも、こうして人に優しくなれて、家族とも向き合っていられて、心の中が落ち着いているから、人生の努力の方向性は間違っていないな、とは思うんです。

鍋田 智久●Tomohisa Nabeta
1959富山生まれ。姓名判断を中心に渋谷の路上で15年人々を見続けてきた占い師。お寺に育ち、専修大学経済学部を卒業後、銀行に入社。さまざまな業種の人々と出会う喜びを胸に仕事に選進する傍ら、密かに画廊、喫茶店、不動産経営なども手がけ多忙な日々を送る。30歳を前に退社し、渋谷に弁護士の補助をする法律関係の事務所をたちあげ、その余暇に始めた占いがやがて本業に。一人一人に真撃に向き合い、ポジティヴに背中を押してくれる的確な助言がクチコミで評判となり、数々の悩める人々を救ってきた。渋谷文化村通り沿いの三井住友銀行前にて19:00から12:00まで、雨天以外年中無休で営業中。Tel.090-3800-5549