第1章
とても自然にドラァグクイーン

  • 山口

    ヴィヴィアン佐藤さんとしてアート全般の領域に渡っていろんな活動をされていらっしゃるでしょう。まずは建築家として、そのほかにもイラストレイター、お店の内装やウィンドウ・ディスプレイ、服やカツラを作るファッションのお仕事、それから映画批評も。そしてドラァグクィーン。ドラァグクィーンのドラァグとは、ドレスを引きずる、という意味ですよね。

  • Vivienne

    そう。ドラァグ(drag)というのは、薬のドラッグ(drug)じゃなく引きずるという意味で、ドラァグクィーンというのは、たとえば引きずるような長いドレスを着てパーティやイベントに行く人のことです。

  • 山口

    そのドラァグクィーンというのはどこで生まれたものなのでしょうか。

  • Vivienne

    アメリカやイギリスだと思いますけれど。でも、古今東西そういう人間はどこにでもいるのです。祭りなどの儀式めいた状況では、歴史的にいろいろなところに登場しています。例えば、アフリカや南米、東南アジアなどの世界中の民族では、狩りや戦いに赴く前にお化粧したり着飾ったりするでしょう。そういったハレというか、特別なときに登場します。

  • 山口

    始めてからどのくらいになるのですか。

  • Vivienne

    15年…もっとになるかしら。高校を出て大学に入ったあたりからだから。私はただふつうにやっていただけなのです。日々やってたことがたまたまこういう形になっただけであって。たまたまドラァグ・クィーンという言葉が分かりやすいから使っているだけで、別にそうなりたかったわけでもないし、呼ばれなくてもかまわないのです。よく「私でもドラァグ・クイーンになれるでしょうか、どうしたらイベントを出たり開催できるのでしょうか」と聞かれるのだけれども、別に検定試験があるわけではないのです(笑)。

  • 山口

    何かきっかけはあったのですか?

  • Vivienne

    よく聞かれる3つの質問があります。「いつ頃から目覚めたのですか?きっかけは?」、「お化粧は自分でするのですか? 何時間くらいかかるのですか?」「恋愛対象は男女どちらで、誰かいるのですか?」と。そのたびに初級編・中級編・上級編と質問者への回答を用意しています(笑)。でもね、期待されるような劇的なものは何もないのです。今の時代、ほとんどの小説や映画などの物語においては、トラウマがなければ主人公になれなかったり、登場さえできなかったりするでしょう?みんな心に傷を持っていることを積極的に出したがる。でも私の場合、親のセックスを見たとか、学校の先生に犯されたとか、そういう分かりやすい劇的なトラウマというのはないのです。 毎日歯を磨いたり、顔を洗ったり、お風呂に入ったりするのと同じようにとてもナチュラルなことなのです。 お化粧をしないとちょっと調子悪いかな、というくらいの感じです。別に歯を磨かなくても死にはしないけれど、お化粧をしないと…ちょっと寂しい。シェイクスピアの戯曲の台詞に「やることがないから女装するか」というのがありますけれど、そんな感じですね。

  • 山口

    なるほど、自然に始められたのですね。

  • Vivienne

    日本のドラァグクィーンは今、第4世代くらいまで出てきているのですけれど、私くらいが第1世代なのですね。関西のシモーヌさんや東京のマーガレットさん、ホッシーさんなどもそうだけど、みなドラァグクィーンと呼ばれる存在になりたかったわけじゃない、と思います。ただ自然にそうなったのだと思うのです。 お手本にする人もいなかったし。だからこそ第1世代は未だに続いていると思うのです。第2世代以降の先輩のドラァグクィーンを見て始めた人たちはやっぱりそれ以上はならないし、そのあとどうしたらいいのか分からなくて続かない場合も多いのです。

  • 山口

    今日本には何人くらいがいらっしゃるの?

  • Vivienne

    日本には入れ替わり立ち替わり、だいたい30人くらいでしょうか。でも一口にドラァグクィーンと言ってもいろいろなタイプがいるのです。 ゲイ・リブの一貫で権利を求める人もいれば、パフォーマンスに比重を置いている人もいるし。例えば、『シークレット・オブ・ドラァグクィーン』(杉並北尾堂刊)というエッセイ集があるのですけれど、当時その企画のときにどういうコンテンツが面白いか、と聞かれたので、たとえばゲイ・リブから始めた保守派と私みたいな革新派、社会派と芸術派というのをそれぞれX軸Y軸にしてマッピングしたら面白いのではないか、と提案してみました。その座標で言うと私は革新派の芸術派というか。ゲイ・リブやゲイ・パレードは参加したことはありますけれど、あまり興味がありませんでした。むしろ境界や領域を横断するほうが好き。だからアートでも建築でも、領域を壊す方向に行ってしまいます。

  • 山口

    それぞれみんなこだわりを持ってやっているのですね。ところで、どうしてみなさん外国人名なのでしょうか。

  • Vivienne

    私の場合は最初にバイトしたお店でママが決めました。最初はCocoちゃんでした。(笑)

  • 山口

    可愛い(笑)。ドラァグクィーンは女性もいるのですか。

  • Vivienne

    女の人も何人かはいるけれど…女性のドラァグクィーンだったら、男性のドラァグクィーンよりももっと努力したりもっと際立たないとやってる意味がないと思います。女性がお化粧をしたり着飾る行為は当たり前だ、というのもありますしね。

  • 山口

    男性の服装をする、ということはあるのかしら。

  • Vivienne

    ありますよ、髭を描いたり。