第5章
無理をせず自分に正直に生きる

  • 山口

    ヴィヴィアンさんのお化粧をキープするための細やかな努力ってすごいと思うことがあって。口紅が落ちないようにマイ・ストローでシャンパンを飲んだりするでしょう。ヴィヴィアン・ウェストウッドが、印象的なファッションは人生を豊かにする、というようなことを言っているのだけれど、ヴィヴィアンさんを見ていてもそう思いますね。いい意味での努力を欠かさない。

  • Vivienne

    でも、努力なんてしてないですよ、私。ほんとに。

  • 山口

    だって、これだけ作るのに時間をかけて。それにそのカツラ。頭に載せてみたけれどバランスがとるだけでも大変でしょう。真っ直ぐにするだけでも難しいのに、すうっときれいに動く。それで歯ぎしりしてしまう、って前に言ってませんでした?

  • Vivienne

    この格好で朝まで踊っている、歯ぎしりが止まらず(笑)、歯がツルツルになっちゃう。

  • 山口

    その頭のバランスをとりながらトイレに行っているヴィヴィアンさんを見て、修行僧みたいだな、と思いました。

  • Vivienne

    修行僧(笑)。そういえば、『クライング・ゲーム』を撮ったニール・ジョーダンという監督がいます。彼の映画ではだいたいIRAのテロリストとジェンダーがテーマなのです。劇中のテロリストは敗北し幻想が壊れて、ジェンダーに走ってしまうことがあります。テロリストというのはいわば理想主義者で、そういう理想主義なところとドラァグクイーンや女装は、意外と似ているのかもしれない。テロリストは社会の幻想を追いかけ、ドラァグクイーンはジェンダーという個人的な幻想を追いかける。ほんとうに無理はしていないのですよ、私。

  • 山口

    最近、ロハスをとりあげた出版物にコメントも寄せていらっしゃいますよね。

  • Vivienne

    何故かは分からないのですが、ロハスに興味を持っている人たちが私に興味を持ってくれているようです。ほら、ロハスというのは Lifestyle of health and sustainability の略で、おおまかにいってしまうと、永続的に無理をしないで自分も周りも健康で、というようなところでしょう。私はこういう生活をしているから、都市部なら世界中どこでも同じなのかもしれませんが、東京という都会ではほんとうにこれが自然体で無理をしていないと思うのです。たとえばものすごく便利なものとしてコンビニがあります。それはロハスとは対極にあるものなのだと思います。田舎の無人野菜売り場で売っている野菜が、港区で売っている何にあたるのか、と考えたら、それはコンビニではないか、と。そのコンビニで得たものを、違う使い方をしてまったく違うものを作ったらどうなのだろう、と。そういったレシピの連載も今ホスト雑誌でしております。(笑)

    私の場合はロハスは Lifestyle of harmony and sacrifice の略だと思います。私のドラァグクィーンの考え方もそれと似ているのだけれど、違ったものを組み合わせたら、パーティやイベントなどの限定された場であるかもしれないけれど、本物のダイヤよりももっと価値のあるものとして提示できるのではないかと思うのです。価値とはとても流動的なものだと思うのです。絶対的な価値というのは信じられない。

  • 山口

    確かに。その格好でびっくりされる場所もあれば、喜ばれる場所もあると思う。インドならむしろ溶け込んでしまうと思いますね。ライフ・イズ・セレブレーションという考え方があって、派手でなんでもありだから。

  • Vivienne

    だから「変わったこと」を狙ってやっているつもりはないのです。「建てない建築」、といっても何か前衛的なもののようにとられるけれど、建築の歴史を見るとむしろそちらのほうが中心だったり王道だったします。たとえば江戸時代の建築を作るときには、当時の価値観を勉強したりリサーチしたりするじゃないですか。でも現代日本でなら、自分自身がいちばんのリサーチ対象や信頼出来るサンプルにもなる。自分の興味のあること、面白い、楽しいと思うことが、あながち外れていないと思うのです。それを思えば、すごく難しいことだけれど、自分に正直に生きる、自分が良いと思うものに耳を傾けることが、大切だと思うのです。

インタビュー:2006年
構成:下田敦子
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